介護甲子園 facecode 京都のおしゃれメガネ プラチナエイジ振興協会 還暦祝本舗

—— 介護、越前和紙、日韓関係と多岐にわたる題材にはどのようにアプローチしましたか。
  取材の過程で特に印象に残ったことはありますか。

まず、学生時代からの友人である脚本家の守口悠介と二人で福井と韓国を旅行しました。福井県和紙工業協同組合にアポを取って工房を見学したり、韓国ではソウルと扶余の街中で通行人を相手にフリーハグならぬ「指キッス」を敢行したりしました。「日韓友好 指キッス 私たちは映画制作者です」と書いた看板を持って立っていたのですが、ちょうど日韓関係が悪化した時期だったにもかかわらず、大勢の人が笑顔で対応してくれて感動しました。超高齢社会、グローバル社会を乗り越えるには「人」と「人」として理解し合うことが何よりも大切であるという本作のメッセージは、この1回目の取材旅行時に実感したことがもとになっています
僕たちが初めて「越前和紙の里」を訪れた時に紙漉きを実演してくださったのが、田中老人役で出演している伝統工芸士の玉村久さんです。石倉三郎さんの技術指導と手の吹き替えもしていただきました。紙漉きの作業は想像を絶するほどの繊細さが要求されます。そんな中で均一な和紙を作り続ける職人さんの精神力、忍耐力に感銘を受けました。また工房を案内してくださった和紙組合の石川浩理事長はその後、福井ロケで全面的に協力していただきました。
介護に関しては、制作プロダクションのソウルエイジが介護事業も行っているので、ソウルエイジが運営するデイサービスや協力者の施設に伺い、研修を受けたり従事者の方々の話を聞いたりしました。ある人から「介護の仕事というとオムツ替えなどの生活介助をイメージする人が多いけれど、生活介助は業務のひとつに過ぎない。その人が最期までその人らしく人生を楽しめるようにお手伝いをすることが介護の本質です」と言われたことが特に印象に残っています。現場の方たちの声以外では、くさか里樹さんの漫画「ヘルプマン!」から大いに影響を受けました。介護業界の現状を取材するうちに、人材不足の問題から終身医療のありかたまで映画に入れたい内容がどんどん増えていって、エピソードを絞るのが大変でした。映画はあくまでも剛生とヨナの物語ですから。介護の現場の話は「なごみ」で働く涼香たちのパートに詰め込みました。

—— 剛生役に石倉三郎さん、ヨナ役にキム・コッピさんをキャスティングした理由と、
  現場での二人の印象を教えてください。

石倉さんの職人気質で孤高のイメージが、紙漉き一筋で生きてきて、倒れても人の手を借りたくない剛生のキャラクターにぴったり合いました。ただし石倉さんは誰に対しても分け隔てなく接する方なので、その点においては外国人に偏見を持っている剛生とは正反対ですね。また、石倉さんといえば豪快でエネルギッシュな印象が強いですが、この作品では剛生の生き様を寡黙な佇まいを通して表したかったので、リアクションは極力抑えていただきました。他では見られない石倉三郎さんが映っていると思います。
キム・コッピさんは脚本を作っている時から出てもらいたいと思っていました。コッピさんの魅力は、作品やシーンによって別人に見えるほどの表情の豊かさ。劇中でヨナは大きく成長していきますが、各シーンの心情をものすごく的確に表現してくれました。石倉さんが「全部、監督の言う通りにやるよ」と言ってくださったのに対し、コッピさんは自分が100パーセント納得できないと芝居はしないというタイプ。劇中のヨナの気持ちだけでなく、衣装や韓国料理の盛り付け方に関しても少しでも違和感があると指摘してくれるので、リアリティが増したと思います。お芝居に関しても、現場でコッピさんと僕が何十分も意見を交わすことが何度もありました。このように石倉さんとコッピさんの演技のスタンスは正反対で、僕にとっては両方大きなプレッシャーでしたが、お二人の相性は抜群でしたね。

—— キム・コッピさんと日本のスタッフ・キャストはどのように
  コミュニケーションをとっていましたか。

コッピさんは、日本の作品に多数出られているので、お会いした当初から少し日本語ができる状態でした。とはいえ、もちろん通訳をたてて現場は臨みました。実は、冒頭の博物館のシーンのガイド役のチェ・ヨナさんが現場では通訳を担当してくださっていたんです。また、金田役の隆(リュン)さんも日本生まれですが韓国語を話せるので、隆さんに間に入ってもらう時もありました。撮影が進むに連れて、コッピさんの日本語レベルがかなり上達し、簡単な内容は日本語とジェスチャーでやりとりすることもありました。スタッフ・キャスト、皆すぐに仲良くなったこともあり、細かな演出意図やニュアンスを説明する時以外は言葉の壁をそれほど感じなかったです。

—— 介護施設と和紙組合の人々を演じるキャストについても教えてください。

新人介護士の涼香役は、いわばこの映画における介護業界の顔です。観客の誰もが応援したくなる雰囲気を持った人を探して、吉岡里帆さんに決まりました。吉岡さんは僕や製作陣が想像していた以上に介護を身近な問題として捉えていて、施設への取材などにも非常に熱心に取り組んでくれました。吉岡さんのみならず、内田慈さん、宇野祥平さんといった「なごみ」のスタッフ役のキャストの方達には、かなり本格的に介護職の役作りをしてもらっています。また本物の介護施設で撮影した「なごみ」のシーンでは、エキストラとして出演してもらった本職の介護士さんたちに一つひとつの所作をチェックしてもらい、リアルさを追求しました。
一方で、和紙組合の理事長、石川役の日野陽仁さんや見習い和紙職人、宇野役の森永悠希さんには、文化の継承というテーマを担っていただきました。お二人とも真顔がとても優しいので、宇野と石川のツーショットは見ていて癒されます。福井出身の日野さんには、石倉さんの方言指導でも活躍していただきました。

—— 作品が完成した今、どのような部分を見てもらいたいですか。

国籍、世代、性別などを超えて「人」と「人」として助け合うことの大切さを感じていただけたら嬉しいです。僕自身、介護を通した交流について最初は頭で考えていた部分がありましたが、取材や撮影を進めるうちにはっきりと実感するようになりました。介護、伝統工芸などの現場にいる人たちのリアルな声を映画に反映することができたと思います。
ヨナは剛生の職人としての生き様に触れることで、自分の人生を見つめ直し、新たな一歩を踏み出します。剛生はヨナという理解者と出会い、過ごすことで外国人に対する偏見から解き放たれ、また次世代への継承についても考え始めます。そして過酷な介護現場で忙殺されていた涼香たちも、ヨナと剛生の姿を見て介護の本質に改めて気づきます。映画をご覧になる方々にとって、登場人物たちの心の変化がこれからの超高齢・グローバル社会について考えるきっかけになるといいなと思っています。